
「自分の物語から生まれるビジネスの形」
創業者の私は、ビジネスは自分のテーマでしかできないのかもしれないと感じています。
確かに、経験豊富なCEOの中には、様々な会社を歴任し、自分の専門外の分野でも成果を上げる方もいます。幅広い知識とスキルを活かし、どんな会社でも成長させられる手腕を持つ人もいるでしょう。
しかし、私はそのタイプではありません。私はビジネスのプロではなく、あくまで自分の個人的な体験を軸に経営をしています。だからこそ、お客様との距離が近く、共感しながらものづくりができるのだと思います。
時々、「経営者としてのスキルが足りないな」と感じることもあります。ですが、その分、個人的な体験やストーリー、お客様との近さでカバーしているとも思っています。
ただ、私と同じ感覚を持っている人は、日本中にすごく多いわけではないということも、市場の広がりを考えたときに課題だと感じています。
ホテルライクインテリアは私そのもの
例えば、「ホテルライクインテリア」というブランド名も、私自身の体験から生まれました。
20代の頃、新宿のパークハイアットに母に連れて行ってもらい、そこで初めて「こんなに豪華で洗練された空間があるのか」と衝撃を受けました。
当時、ラグジュアリーリネンの輸入販売のビジネスを始めようと考えていた私は、「ホテルのようなシーツを売るブランドなら、消費者に響くだろう」と思い、この名前をつけました。
実際に、私と同じ感覚を持つ人が多く、ブランド名にも共感してもらえる経験がありました。
ラグジュアリーの多様性を求めて
ラグジュアリーリネンの素敵な世界観を広げることが、私たちのミッションではあります。
ただ、そのミッションを達成する上で、「ホテルライクインテリアのテイストを好む人にだけ届けることが最善なのか?」 という疑問がありました。
ラグジュアリーとは、単なる物質的な豊かさではなく、「自分らしさを表現すること」でもあると私は考えています。
そのため、もっと多様なライフスタイルに寄り添ったリネンブランドを展開したいと思いはじめました。
その時期に「ホテルライクインテリアはちょっと気取っている」「自分のスタイルとは違う」「家に合わないかも」といったお声をいただくこともありより一層そう感じました。
ブティックホテルをテーマにした新たなブランドの発想
そのとき私の頭に浮かんだテーマは 「ブティックホテル」 でした。
これもまた、私自身の個人的な体験から生まれた発想です。
20代の頃、マンハッタンで訪れたホテルの記憶が今でも鮮明に残っています。
ニューヨークの街には、どこかストリートっぽさを感じる雰囲気があります。壁には大胆なグラフィックが描かれ、地下鉄の通気口からは湯気が立ち上る。
そんな街並みに佇むブティックホテルは、洗練されたアートやヴィンテージ家具が絶妙に組み合わされ、一見無造作に見えて、実は計算されたバランスがとられていました。
私は普段、モダンで整然とした空間を好むのですが、この「遊び心のある編集された部屋」に惹かれたのを覚えています。
そして、このテイストを好む人は多いのではないかと考え、「ホテルライクインテリアでは自分のスタイルと違う」と感じていた方々に向けたブランドを模索し始めました。
その発想から生まれたのが、新ブランド「トーキッドホテル」です。
「ホテルライクインテリア」と「トーキッドホテル」の購買スタイルの違い
ブランドを構築する上で、お客様の購買スタイルを考える必要があります。
大きく分けると、以下のような傾向があると感じました。

1. ホテルライクインテリアのお客様
⬛︎ インテリアにおいて、完成された世界観や名品を取り入れたい方
このタイプのお客様は、すでに美しいと評価されているアイテムを取り入れたり、プロのコーディネートを参考にしたりしながら、自分の理想の空間を作り上げる傾向があります。名品と呼ばれるアイテムや、カタログで提案されるスタイルに魅力を感じることが多く、トータルでの美しさを重視されます。
ホテルライクインテリアは、そういった美意識を持つ方々に支持されていると感じています。(私自身も、インテリアを選ぶ際にはコーディネーターの方に相談し、名品と呼ばれるものを取り入れることが多いです。)

2. トーキッドホテルのお客様
⬛︎ 自分の感性を軸に、独自の空間を作り上げたい方
一方で、「インテリアはもっと自由に、自分の好きなものを組み合わせて作り上げたい」という方もいらっしゃいます。決まったスタイルにとらわれず、個々のアイテムのストーリーや質感を大切にしながら、自分らしい空間を編集することを楽しむタイプです。
ブティックホテルのような、個性的であり一辺倒ではないインテリアに魅力を感じる方が、このタイプに当てはまりやすいかもしれません。
なぜ、トーキッドホテルのディレクションを深代さんに任せたのか?
多様なライフスタイルに寄り添えるリネンブランドを作りたいと考え、そこにブティックホテルのイメージを取り入れることにしました。
しかし、その時ふと、「果たして私がこのブランドの適任者なのか?」と考えました。
なぜなら、最初にお伝えしたように、ビジネスは自分のテーマでしか成り立たないのかもしれない と思っているからです。
これまで私が手がけてきたのは、「完成された世界観を作る」スタイル。
言い換えれば、私自身が普段選ばないタイプのブランドを作るのは難しく、むしろその世界観に共感する人こそがリアルなイメージを描けるのではないか と考えました。
「私と違う買い方・選び方をするブランドは、なかなかうまく作れない。
それなら、お客様に近い感覚を持つ人が、想像も膨らませやすいはず。」
そう思い、新ブランド「トーキッドホテル」のディレクションを深代さんに任せることにしました。
次回予告:トーキッドホテルのブランドづくりと深代さんとの対話
私とは違う価値観を持つ深代さんとの議論は、時に考え込み、時に発見がありました。
次回は、「ブランドづくりのディレクションを他者に任せる」という新しい挑戦について、深代さんとの対話を交えながら書いてみたいと思います。