
パリへの出張中、SFERRAのCEOであるMichelle Klein氏と対話する機会があり、私は彼女に問いかけました。

「あなたのキャリアを形作ったものは何ですか?」
彼女は、1994年にニューヨークのブルーミングデールズでキャリアをスタートして以来、ラグジュアリー・ホーム業界に身を置いてきました。その後、ロッシュ・ボボアの北米副社長を経て、バカラのアメリカ地域プレジデント兼CEOに就任。現在はSFERRAのグローバルCEO兼プレジデントとしてブランドを率いています。
SFERRA(スフェラ)は1891年に創業した歴史あるリネンブランドで、品質の高さとクラフトマンシップを大切にしながら、業界に革新をもたらしてきました。(ホテルライクインテリアはSFERRAの日本代理店です。)
彼女は静かに微笑みながら、こう答えました。
「私の専門はラグジュアリーです。」
そして、続けました。
「私が新しい人材を採用するとき、必ず聞く質問の一つがあります。
『あなたはラグジュアリーをどう定義しますか?』
なぜなら、ラグジュアリーを本当に理解し、体現することが重要だからです。」
ラグジュアリーとは「ストーリーを語ること」
彼女にとって、ラグジュアリーとは「ストーリーを語ること」。
単なる高価なものではなく、背景にある物語や想いが価値を生むものだと。
そして、それは教えて身につくものではなく、人が自ら感じ、理解するもの。
だからこそ、ラグジュアリーを本質的に理解できない人は、成功しないこともあると言いました。
私は日頃から**「ストーリーを持って意思決定をする」**ことを大切にしているので、彼女の意見には深く共感しました。
するとMichelle氏は、今度は私に問いかけました。
「あなたにとって、ラグジュアリーとは何ですか?」
私はこう答えました。
「私にとって、ラグジュアリーとは『自分らしさを大切にしながら、自分自身で選択すること』です。」
自分らしさとラグジュアリー
私にとって、ラグジュアリーとは「物を所有すること」ではなく、「体験」に重きを置くこと。
どのような暮らしが心地よいかを考え、その中で自然とものが寄り添っている感覚が理想です。
そのため、興味があるのはファッションよりも生活そのもの。
「私らしく過ごす方法」を大切にしながら、その時々に必要なものが、最上級のものであればなお良い。
そして、何よりも大事なのは「選ぶ過程」。
ただ高価なものを手に入れるのではなく、そこにストーリーがあるかどうかが重要です。
なぜそれを選んだのか、その背景にある想いや意味こそが、私にとってのラグジュアリーを形作っています。
(モノやブランド自体の歴史やストーリーというより、私自身の個人的なストーリーという方が近いです。)
クラフトマンシップとしてのラグジュアリー
彼女はさらに、その場にいた副社長にも同じ質問を投げかけました。
すると彼は、「ラグジュアリーとはクラフトマンシップだ」と答えました。
彼の言葉には、具体的な職人の技術と、それが生み出す価値についての深い理解がありました。
卓越したノウハウを持つ職人たちが、美しい素材を用いて生み出す作品こそがラグジュアリーの本質。
例えば、SFERRAが手掛けるリネンは、最高級のエジプト綿を使用し、イタリアの熟練した職人たちが織り上げています。
一枚のシーツが完成するまでに、何十もの工程があり、そのひとつひとつに職人のこだわりが詰まっている。
そうした手仕事の積み重ねが、ブランドの価値を支えているのです。
この問いは抽象的だからこそ、答え方は自由。
どの角度から考えるかによって、それぞれの価値観が反映されるものだと感じました。
「ラグジュアリー」を企業理念に掲げることへの迷い
この対話を通じて、私は改めて考えました。
会社の企業理念を決めるとき、
「ハイブランドを経営しているわけではないのに、こんな大きな言葉を使うのは、長年ラグジュアリービジネスに携わってきた方々に失礼なのでは?」
「ラグジュアリーを“あなたらしさ”と定義するのは、あまりに個人的すぎるのでは?」
と、躊躇したことがありました。
けれど、この経験を通じて確信しました。
ラグジュアリーとは決して一つの定義に縛られるものではなく、極めて個人的なストーリーであっていい。
人によってその意味は異なり、それぞれの人生の中で形作られていくものなのだと。
だからこそ、私はこの理念を掲げることに意味があるのだと思います。
「自分らしく生きることこそが、最も贅沢なことではないだろうか?」
この余白のある問いが、私は好きです。
あなたにとっての「ラグジュアリー」とは?
皆さんにとって、ラグジュアリーとは何でしょうか?
それはどんな形をしていて、どんな選択を通じて生まれるものでしょうか?
Michelle Klein氏の詳しいインタビューはこちらからご覧いただけます。